カテゴリ: 日本の教育制度・資格試験制度

20190417文部科学委員会での初鹿明博議員の国会質疑を視聴しました(初鹿さーん、次官の時間ですよー!)。
 
前半の掘り下げて追及する論点がズレていて、後半の追及が本丸に至らなかったと思いました。
誰もがうすうす感づいているけど口に出して言わないことを、ぼくが代わりに言います。どの教員が在籍しているかだとか、文部科学省の設置計画履行状況等調査だかで、どの大学に進学するかを決める受験生なんて、日本にはほとんどいません。
 
そんなことより、大学のネームバリューと国家試験合格率で95パーセント前後が決まり、残りの5パーセント前後が学費で決まります(花より団子)。実例をひとつ挙げます。もう十年以上前ですが、共立薬科大学が慶應義塾大学と合併することで消滅しました。実に分かりやすい記事がありました。
この薬学部長による記事によれば
 
その年の入試では210 人の定員に5,000 人を超える志願者を集め、競争率は一気に上昇した。実際にはそれから1年半を経て、本年4月に慶應義塾大学薬学部が誕生した。
 
とのことです。
 
入学する大学と卒業する大学が違ったって、ネームバリューを高める統廃合であるのなら、文句を言う学生・保護者なんて誰もいません。入学した大学が消滅してしまったって知ったことでは無い。
 
初鹿明博議員の前半の質疑で、「早慶に入学した学生が別の大学で卒業した場合」を取り上げていましたが、そんなケースは日本が滅亡する日までありえません。
 
むしろ、ネームバリューを高める大学統廃合だったら、学生・保護者ともに大歓迎です。特定の教員がリストラされて受けたい講義が消滅しようが、気にする学生・保護者なんていません(100人中90人超レベル)。岡山理科大学獣医学部が愛媛大学(国立大学)に譲渡されたとしても、ネームバリューは下がらないし、学費も上がらないし、国家試験合格率も下がらないです。
 
学生・保護者からの不満も沸き上がりません。ネームバリューに影響がない学部譲渡なんてものは、大した争点ではないです。むしろ重要な争点は、大学統廃合によって消滅大学(学部)の経営責任がウヤムヤにされるかどうかです。
 
初鹿議員の質疑の後半で、私学助成金が削減された東京福祉大学の役員が実験を手放さないことを批判していました。大学は株式会社と違って株主総会が無いです。意思決定に関与している一部の人間が暴走したら歯止めが効きません。
 
総理のお友達であることをタテにして特例申請をゴリ押ししたことがバレても平然とイスに座っていられることが総理の出処進退に関わる屋台骨です。
30分前後しか時間が無かったら、総理のお友達である加計孝太郎の経営責任を衝かないで何を追及するんだよ。

六辻彰二氏の
「加計学園問題に関する単純な疑問『日本では獣医師が不足しているのか?』:データでみる国際比較」
についてです。
 
六辻氏の

「獣医師を特定の地方、特定のセクターに誘導することを重視するなら、既に日本全体で数が十分である以上、獣医師の総数を現状より増やす必要があるかは疑問です。」

という主張に全く共感できませんでした。

ニュージーランドでは日本を含む海外出身者にも広く門戸を開放しています。教育の質も高いです。
http://www.ecube.co.nz/content/427

ニュージーランドの獣医師制度は、需要に見合った人数しか獣医師にさせないという制度ではありません。
ニュージーランドのMassey大学の獣医学部のサイトを確認したところ、
  a.. Over 1000 students
  b.. 250 staff
とありました。
http://www.massey.ac.nz/massey/explore/departments/school-veterinary-science/school-veterinary-science_home.cfm

「ニュージーランド獣医師免許を保持していればニュージーランド以外に、アメリカ、カナダ、イギリス、ヨーロッパ諸国、南アフリカ、オーストラリアでも働くことが可能なので、それらの国で働くことなども視野に入れています。」
とのことです。
http://www.ecube.co.nz/content/427

総理のお友達に便宜を図り国家戦略特区を隠れ蓑にして岡山理科大学獣医学部を創設したことは非常に不公正なことだと思います。でも、獣医師の需要に見合った人数に、獣医師資格取得者を制限することが質の維持と関係あるとは全く思えませんでした。

国家資格を取得するということと、終身在職権を保障する(獣医師が失業するリスクを受け入れる)ということを表裏一体にしなければならない理由が全く分かりませんでした。

東京医科大学の不正入試についての記者会見は非常に思い上がった態度でした。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33910710X00C18A8CC1000/

遥か太古の昔から不正があるにもかかわらず、二年前までしか救済にさかのぼらない。このような思い上がった態度を取れる理由は
https://www.tokyo-med.ac.jp/news/2018/1107_202007001942.html

「他所の医学部もみーーんなオレたちと同じことをやっている。不正入試の被害者への個人補償を例外なくやったら、ほとんど全ての医学部が破産する。医師の人数が極端に制限されているのに、本気で処分したら日本の医療は成り立たなくなる。」

という、医師の人数が制限されていることを人質に取った思い上がりからです。質の維持のために国家資格取得者の人数を制限するという主張は一見もっともらしく見えますが、現実には「独占業務の既得権維持」にしかつながっていないと思いました。
 

弁護士・会計士などの国家資格について、TPPの成立を突破口として日米間で資格制度を相互承認する可能性が現実味を帯びた時期があった。日本の国家試験に合格した職業専門家は不安をあらわにしている。
https://ameblo.jp/satoshifukudome/entry-11828030029.html

日米に限らず多国籍間の資格制度相互承認について、誰もがうすうす感づいていることを誰一人声に出して発言しようとしないことに非常に驚いている。

かなり以前だが、故 立川談志さんがトーク番組でこんな発言をしていたのを覚えている。なお彼は参議院議員を一期だけ務めている。

「国会というのは何のために存在するのか?国会議員の生活のために存在している。テレビというのは何のために存在するのか?テレビ局社員・タレントなどの生活のために存在している。(国会議員やテレビ局社員・タレントの生活のための存在を維持するための)対象として有権者や視聴者が存在する。」

とのことだった。「そんなことはない」と言える人は誰一人いないと思う。この発言で指摘された図式は、そっくりそのまま弁護士・公認会計士などの職業専門家に適用できる。

「裁判所というのは何のために存在するのか?法律家の生活のために存在している。会計監査制度というのは何のために存在するのか?公認会計士の生活のために存在している。(法律家や会計人の生活のための存在を維持するための)対象として依頼人・投資家が存在する。」

依頼人や投資家の立場で「そんなことはない」と言える人は誰一人いないと思う。

日本将棋連盟のプロ棋士が大激震に見舞われている。将棋のプロ棋士という職業は、年に数人しか誕生し得ないスーパーエリートだ。ところが、ソフトウェア開発者が本業の片手間に開発した将棋ソフトに対して、百戦して一勝もできなくなった。
https://number.bunshun.jp/articles/-/827817

「新規参入するプロ棋士の人数を制限することで、プロ棋士の質を維持する。」

という趣旨のプロ制度は、外部環境の変化に柔軟に対応できない。

全く同じ図式が、(多国籍間の資格制度相互承認が導入された場合の)弁護士・公認会計士などの職業専門家に対しても適用できる。

「国家試験の合格者数を極端に制限することで、弁護士・公認会計士の質を維持する。」

という図式は、外国資本の法律事務所・会計事務所が日本国内に支所をどんどん直接的に創設する事態に柔軟に対応できない。外国資本が直接的に本格的に日本市場に参入すれば

「国家試験に合格できれば、弁護士・公認会計士としての終身在職権が保障される。」

という日本の弁護士・公認会計士たちの独り善がりの思い込みは雲散霧消してしまう。コンピュータ将棋の「名人越え」で、プロ棋士の生活が脅かされつつあるのと全く同じ図式だ。

バカの一つ覚えについて反論しておく。

「日本の国家試験に比べれば遥かに易しい試験に合格した外国弁護士・外国公認会計士などの職業専門家が、日本の法律サービス市場・会計サービス市場に直接的に参入すると、サービスの質が落ちて利用者に損害を与えることになる。」

一見するともっともらしい理屈だ。

まず弁護士について反論その一。

「日本の民事裁判は(法曹資格が無い)本人訴訟が可能だ。(法曹資格が無い)法律の素人相手に敗訴した弁護士が引退した事例を聞いたことが無い。難しい国家試験に合格することで質が維持されている(らしい)日本の弁護士が、法律の素人相手に敗訴してもハローワークへ行かない理由を列挙してほしい。」

弁護士について反論その二。

「日本には弁護過誤訴訟(医療過誤訴訟の弁護士版)を専門に手がける法律事務所が存在しない。新規参入が異常に難しい同業者間で相互にかばい合っているからだ。(日本の国家試験を経ていない弁護士が経営する)外国資本の法律事務所が直接的に本格的に参入したら、弁護過誤訴訟を依頼しやすい状況が生まれる。日本の弁護士と、外国の弁護士で相互批判で切磋琢磨しあい法律サービスの質が向上する。」

Googleにて

「弁護過誤」・「法律事務所」というキーワードで検索しても弁護過誤訴訟を手がける弁護士事務所は全然ヒットしない。
https://www.google.com/search?q=%E5%BC%81%E8%AD%B7%E9%81%8E%E8%AA%A4+%E6%B3%95%E5%BE%8B%E4%BA%8B%E5%8B%99%E6%89%80&rlz=1C1CAFB_enJP697JP697&oq=%E5%BC%81%E8%AD%B7%E9%81%8E%E8%AA%A4+%E6%B3%95%E5%BE%8B%E4%BA%8B%E5%8B%99%E6%89%80&aqs=chrome..69i57.17612j1j7&sourceid=chrome&ie=UTF-8
ところが「legal malpractice」・「law firm」というキーワードで検索すれば、選ぶのが困難なほど弁護過誤訴訟を手がける弁護士事務所を見つけられる。
https://www.google.com/search?rlz=1C1CAFB_enJP697JP697&ei=jik7XPreJcaC8wWik4S4Aw&q=legal+malpractice+law+firm&oq=legal+malpractice+law+firm&gs_l=psy-ab.3..0i19j0i30i19l2.39269.43896..45310...1.0..0.130.1237.13j2......0....1j2..gws-wiz.....0..0i7i30i19j0i13i30i19.1GCGadPDpRw
 

次に公認会計士について反論。

「2011年3月期の東京電力の監査報告書を見てみる。
167~168ページ
 
 
行政当局・東京電力の福島第一原発事故への対応・事後処理についてウダウダ述べた後で、事故の影響が不確実だから合理的な損失金額は見積もれないと主張する。原発事故による損失額の大甘の引当に不適正意見を出していない。

『被害が銀河系の果てまでかアンドロメダまで到達するか』の不確実さを逆手にとって、『不確実だから太陽系の範囲内で被害が収束できるかもしれない』と悪質な論旨のすり替えをしている。

2011年3月10日以前の状態に戻すことは絶対に不可能であることを東京電力の会計監査人は知っているくせにだ。そして福島第一原発近隣に在住する子供たちへの健康被害賠償金額は天文学的金額になることも知っているくせにだ。原発事故による個人への賠償金額を合理的に見積もれば、被害者一人あたりの人生を台無しにしたレベルの金額になる。過失割合がドライバー10:被害者0の交通事故と同レベルだ。2011年3月期決算で東京電力は本来は債務超過だった。

もし万一(東京電力の会計監査人である)新日本監査法人が訴えられたところで、裁判所が同業者会計士に監査結果が適正かどうか意見を求めることになる。意見を求められた同業者会計士は、『明日はわが身』で相互にかばいあうのは明白だ。極めて質の低い監査が維持されている。(日本の国家試験を経ていない会計士が経営する)外国資本の会計事務所が直接的に本格的に参入したら、なあなあで居心地のよい利権の維持は不可能になる。」

これらは小学生レベルの反論だ。

日本市場への参入を真剣に考えている外国資本の法律事務所があるのなら、弁護過誤訴訟のエキスパートをパートナーにして

「日本の無能な弁護士をどんどん訴えましょう!」

と大々的にCMを出す。

日本市場への参入を真剣に考えている外国資本の会計事務所があるのなら、継続性に疑義のある東京電力や東芝のような会社の機関投資家株主や株主オンブズマンに徹底的に営業攻勢して

「(東京電力や東芝の監査を担当する)新日本監査法人より遥かに厳しく監査をします。新日本監査法人との監査契約を切りましょう!」

とプッシュする。依頼人や投資家にとって大いにメリットがあると思う。

職業専門家の仲間内での議論では

「もし多国籍間の資格制度相互承認が導入された場合、依頼人や投資家の立場でどのようなメリット・デメリットが考えられるのか?」

という視座がゼロだ。あるのは

「もし多国籍間の資格制度相互承認が導入された場合、職業専門家の財布の中身にどのような影響が考えられるのか?」

という視座だけだ。

法律サービス・会計サービスについては、外国資本との競争から保護する必要は全く無いです。

日本の国家試験制度を全部まとめて粉々に粉砕し、職業専門家の資格取得要件を根本から作り直すのが日本の将来にとって最も利益をもたらすと痛感しました。

競争しないで終身在職権を絶対に維持したい日本の職業専門家の甘ったれの精神構造が根本の原因だと思いました。

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